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岡山地方裁判所 平成4年(わ)118号 判決 1992年7月14日

国籍

韓国(慶尚南道釜山府東来面福町)

住居

岡山市津島本町一六番二三号

焼鳥店従業員

新井こと 朴義實

一九五二年一〇月八日生

主文

被告人を懲役一年及び罰金一五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金三万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から五年間、右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、兵庫県神戸市中央区北長狭通二丁目一一番一六号所在のファンタジービル一階において、ゲーム喫茶「JOY」との名称で飲食店を経営していたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、従業員を名目上の経営者として営業許可を受けるなどして仮装し、かつ、所得税の確定申告に際しては、所得金額に関する収支計算を行わず、適宜の金額を計上するところのいわゆるつまみ申告を行う方法により、その所得を秘匿した上

第一  平成元年分の総所得金額が二、一九八万一、三一二円でこれに対する所得税額は五九一万七、六〇〇円であったにもかかわらず、同二年三月一五日、岡山県倉敷市幸町二番三七号所在の倉敷税務署において、同税務署長に対し、同元年分の総所得金額が五三九万五、五〇〇円で、これに対する所得税額が二五万六、二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額五九一万七、六〇〇円と右申告税額との差額五六六万一、四〇〇円を免れ

第二  同二年分の総所得金額が一億二、〇八〇万七、二八八円でこれに対する所得税額は五、五二三万九、五〇〇円であったにもかかわらず、同三年三月一四日、前記倉敷税務署において、同税務署長に対し、同二年分の総所得金額が五三七万三、六一〇円で、これに対する所得税額が二四万五、三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額五、五二三万九、五〇〇円と右申告税額との差額五、四九九万四、二〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

全部の事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  古賀幸子、朴華實、鈴木康彦、前園光子の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の各調査書

第一の事実につき

一  大蔵事務官作成の領置てん末書(検2の分)

一  押収してある所得税の確定申告書(平成元年分)一綴(平成四年押第三五号の一)

一  被告人作成の元年分の所得税の修正申告書謄本

第二の事実につき

一  大蔵事務官作成の領置てん末書(検4の分)

一  押収してある所得税の確定申告書(平成二年分)一枚(平成四年押第三五号の二)

一  被告人作成の平成二年分の所得税の修正申告書謄本

(確定裁判)

被告人は、平成四年三月二七日大阪高等裁判所で常習賭博罪により懲役一年一〇月、執行猶予五年に処せられ、右裁判は同年四月一一日確定したものであって、この事実は検察事務官作成の報告書、右事件の判決書謄本によりこれを認める。

(法令の適用)

一  罰条 所得税法二三八条一項、二項

一  併合罪の処理 刑法四五条後段、前段、四七条本文、一〇条

一  労役場留置 同法一八条

一  執行猶予 同法二五条一項

(量刑について)

被告人は、ゲーム喫茶の開業につき、従業員を名目上の経営者として営業許可を受け、当初から帳簿を全く作成せず税逋脱の意図を有していたものであり、適宜の過少申告をして判示のとおり二年間で合計六〇〇〇万円を超える所得税を逋脱し、逋脱率は九九パーセントを超えるという悪質なものである。もとより、税収入は国家財政の基盤であり、所得税は収入に応じて負担すべきであって、巨額の収入を得ながら、税負担の殆どを免れようとした被告人の利己的行動は厳しく非難されるべきであり、かつ善良な市民の納税意欲を減少、喪失させるなど社会に及ぼす影響も懸念される。これら本件の動機、態様、結果、社会への影響等に照らすと、被告人の刑事責任には重いものがある。

ところで、本件は被告人の経営するゲーム喫茶における常習賭博の被疑事件の捜査の中で発覚したものであるが、被告人は国税当局の調査に対す事実を全て認め、修正申告をして本税、延滞税を納入し、重加算税も一部を納入し、そのため土地建物を処分するなど、本件を反省し真摯に対応すると共に、焼鳥店で修業し、やり直しの努力をしている。また被告人の親族において、右の納入に協力し、今後とも可能な限りの援助を約している。

そして、被告人には右の常習賭博罪の確定裁判があるところ、右の判決は理由中において本件について触れ、その対応も原審の実刑判決を破棄して執行猶予を付す一つの事情としているのであって、本件で懲役刑の実刑になると右の執行猶予が取消されることになり、右の判決の趣旨に反する結果となる。

以上の事情、その他記録に表われた諸般の情状及び相応の罰金刑が併科されることを考慮すると、懲役刑については刑の執行を猶予する(その期間は右判決と同一とする)のが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(検察官澤田正史、弁護人大石和昭 各出席)

(裁判官 谷岡武教)

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